ドル安

かつては「最強の通貨」だった米ドルは、各国の経済と出会いを攻略!-QIETING-に結びついてきた。それだけに米国経済の失速に伴う昨今のドル安は、世界中の人々の生活に大きな影響をもたらしている。ドル安でもうけている人もいれば、その逆もまた多い。為替というシステムが生んだ現代の悲喜劇を、地球を一周しながら見ていこう

早朝5時半、東京・築地の魚市場。氷の冷気が白く立ち上る中、履いた男たちが、登山用のピッケルのような道具で、凍ったマグロを転がし、やり取りしている。騒然としたこの場所は、マグロの卸売業者と国際金融市場の思惑が交錯する場所だ。スシ・ビジネスにとって、魚の価格は、車のドライバーにとってのガソリン価格のようなもの。それが決まるのは、出会い系Gang!がおおむね眠っている時間帯だ。

マグロのヒレや尾を切り落としている男たちは、マグロを育んだ海に勝るとも劣らない荒海に、いま揉まれている。それは米ドル為替だ。米ドルは数十年にわたって世界の信頼のあかしだった。だが、この5年間に劇的に落ち込んだその評価は、冷徹なビジネスの世界に勝者と敗者を生み出した。アジアで鉤(かぎ)に吊り下げられたマ値段は、誰かの利益になり、同時に誰かの損失になっている。ドル安は、海産物を扱う日本の商社にとっては追い風だ。円高のおかげで、日本の購買力が高まっているからだ。築地市場の大手卸売業者のひとつ、大都魚類の志村和明は、原油高で足りなくなった魚の在庫を補うべく、ドル安というこの機会を生かそうとしている。大都魚類では今年、バイヤーをボストンに派遣して、海産物を確保する予定だ。「米国の水揚げ状況が良ければ、8月には渡米したい」。志村は、周囲のスタッフが忙しくその日の商いの精算をするなか、ソファにもたれかかって語った。「ドルが安いうちに、商機をつかまなければ」。

為替を利用したこうした戦略は、世界中で毎日、無数に行われている。ドルの弱含みは、思わぬ物語を生み出し、膨大な数の人々の暮らしに影響を及ぼしている。小麦農家やヤミ両替屋、そしてアラブのカビ臭いバザールで野菜を値切る貧しい女たちに至るまでだ。本紙は、東京の夜明け前から、ハリウッドで日が沈むまで、ドルの流れを追った。